ろなんですから。一寸素晴しいもんですぜ。Dという一流雑誌に三月も前からせびられている奴なんですよ」
「期待しますわ」女流詩人はこの上もなく感動して小さな目を輝かした。
「僕はもう朝鮮語の創作にはこりました。朝鮮語なんか糞喰らえです。だってそれは滅亡の呪符ですからね」そこで昨夜の会合のことを思い浮べながら、出鱈目《でたらめ》な見得を切ってみせた。
「僕は東京文壇へ返り咲くつもりです。東京の友人達も皆それを一生懸命にすすめているんです」
けれどその実文素玉のような女は、昨夜明菓で本当に朝鮮の文学を守りたてているような真摯な文人達の間に会合があったことを知っている訳がない。玄竜だってどこかでこの文人達の集りのことをかぎつけて、殆んど会も終る頃のっそりと現われたのだ。が、そこには彼を朝鮮文化の怖ろしいだにとして憎悪|擯斥《ひんせき》している男女ばかりがずらりと並んで、面々に興奮と緊張の色をみなぎらせて朝鮮文化の一般問題だとか、朝鮮語による述作問題の是非について熱心に討論し合っていた。彼はへーと笑いつつきまり悪そうに片隅へ離れてちょこなんと腰をかけた。やはり彼等は自分達自身の手で朝鮮の文化を打
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