る》したかったのである。そして出来るだけ彼を研究し徐々に指導して行こうと決心した。私は先ずこういう風に考えたのだった。貧しい彼の一家は今まで朝鮮に移住生活を続けていた。その時に彼も外地へ渡った一般の子供のようにつむじ曲りの優越感を持たされて帰ったのであろう。だが私は或る日とうとう見兼て真赤に怒ってしまった。その時も私は教場に下りて子供達と遊んでいたが、二三度私の方をわざとらしく気遣ってから、急に何でもないことに怒って、傍の小さな女の子を実に残忍な程までに腕をふり廻して打ったのである。女の子は泣きながら逃げて行った。彼は逃げて行くのを追いかけながら、
「朝鮮人ザバレ、ザバレ――」と喚き立てた。
 ザバレと云うのは捕えろという意味の朝鮮語で、朝鮮移住の内地人がよく使う言葉だった。勿論女の子は朝鮮人ではない。私に対して見よがしに言ってみるのであろう。私は飛んで行って山田の襟首をつかまえると、前後見さかいなしに頬打ちを喰わした。
「何んということをする奴だ!」
 山田は声をひそめて何も云わなかった。ただそれは木偶《でく》のように私のするがままになっていた。泣きもしなかった。そして荒々しい息づか
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