れは先生として先ず淋しいことです。いや寧ろ怖ろしいことに違いない。だからと云って私は自分が朝鮮人だということを隠そうとするのではない。ただ皆さんがそういう風に私を呼んでくれた。又私もそうことさらに自分は朝鮮人だとしゃべり廻る必要も認めなかっただけなんです。だが君にそういう印象を少しでも与えたならば、私は何とも弁解のしようもないのです……」
 と云った時、戸を開けて覗き込んでいた子供の中、突然大きな声で喚いたものがある。
「そうれ、先生は朝鮮人だぞう!」
 山田春雄だった。瞬間廊下はしんとなった。私も一寸ばかり面喰わずにはいられなかった。そこで努めて気を落着けるようにしてこう云った。
「いずれ又会ってゆっくり話しましょう」
 李はわなわな手をふるわせながら出て行った。山田をはじめ二三の子供たちが逃げ出すようだった。私は呆然と立ち尽していた。一瞬間電光のように俺こそ偽善者ではないかという考えが閃《ひらめ》いたのである。階下の方ではがんがんと鐘の音が聞えていた。子供たちは騒ぎたてながら雲のように下りて行く、その音が恰《あたか》も遠い所からのように響いて来た。すると戸がそっと開いて忍び足でやっ
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