さ》で言葉につまった。
「まあ落着いて坐ろうじゃありませんか」
「どうしてか、私はそれが訊きたいのです。私は先生の眼や顴骨《かんこつ》や鼻立から、きっと朝鮮人であるのに違いないと思いました。だがあなたはそんな素振り一つしなかったようです。私は自動車の助手をしています。寧ろ私のような職場の人々に苗字のことでいろいろ気拙《きまず》いことが多い筈です。だが」彼は波打つ激情の余り吃《ども》り出した。どうして彼はこんなにまで興奮しているのであろうか。「だが私はそんな必要を認めないのです。私はひがみたくもなければ、又卑屈な真似もしたくないのです」
「全くです」私はかすかに呻《うめ》くように云った。「私も君の云うことと同感です。だが私としては子供達と愉快にやってゆきたかっただけのことです」廊下では相も変らず先の子供たちが騒ぎ合いながら、時々戸を開けては洟《はな》たれ顔で覗いたり、目をつぶって舌を出してみせたりした。「例《たと》えば私が朝鮮の人だとすれば、ああいう子供たちの私に対する気持の中には、愛情というものの外に悪い意味での好奇心といっていいか、とにかく一種別なものが先に立って来ると思うのです。そ
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