ょうへん》するかは知らない。寧ろ又私を立ち所に裏切るには違いない。だが頑なにこちこちといじけ固っていた気持を、ほんの少しでもほぐしかけて来たこの機会を、私は逃してはならないと思ったのだ。
どうしたものかその時二人は浮かれ浮かれて老木の間をぬけて弁天様の傍を通っていた。そこにもここにも昨夜の嵐の跡が残って、折れた枝が落ちかかったり雨に洗われた地面に所々わくら葉が落ちたりしていた。鳩の群が弁天様の屋根や五重の塔のまわりをにぎやかに飛び交っていた。灯籠の傍に出ると下の方に茂みの合間を通して不忍池が見渡される。それは鏡をのべたように夕陽に照り返り時々ぎらぎらと金色に光ってみえた。五つ六つボートが浮んでいた。池に渡した石橋のてすりには多勢の人々がもたれて水面をながめている。何んだか軽い霧が立ちこめはじめているように思われた。もうだんだんと夕暮になって来るのであろう。ゆるやかにそれが池をつたわってこちらの方へ次第にひろがって来るように感ぜられる。それにつれて二人の心はますます清澄なものにしずまって行くのであった。
「動物園というのがここまで来てしまったね」
「だけど僕、ボートに乗りたいな」彼はは
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