て取り消した。全くへんな子供だなあと私は思った。丁度それと殆んど同じ瞬間だった。もしや彼がその朝鮮の子供ではないかという考が不意に浮んで来たのは。私は驚いたように彼の顔をじっと見つめた。彼は顔をこわばらせ警戒するように後ずさりした。そして急に一目散に階段をかけ下りながら叫ぶのだった。
「うん、僕、帽子をかぶって来るよ」
私は静かに首をふりながら階段を下りて行った。
だが私は玄関口から近い階段まで下りかけた時に、下の方で並々ならぬことがもち上っているのを知った。息をひそめてもみ合いながら、医療部の医師や看護婦や購買組合の男たちが、玄関口に横着けにされた自動車から一人のみすぼらしい恰好をした婦《おんな》を運び込んでいる。その後から助手の李がひどく興奮しているとみえ、肩で呼吸をきらしながらはいって来るのが見えた。婦の頭は血まみれになって後へぐんなりと垂れている。春雄がその傍をぶるぶるふるえながら二三歩ついて来たが、私を見附けるとぎょっとして立ち竦《すく》んだ。私はすぐに李の方へ近附いて行って、心配そうにどうしたことだと質ねた。すると彼は歯ぎしりしながら叫んだ。
「亭主に刃物で頭をやられた
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