移住同胞達の笑顔を見たりはしゃぐ声を聞いたりすると、時には思わず微笑ましくなり、又涙ぐましくも悦に入ったりするのだ。あの朝鮮語のふざけた弥次《やじ》を聞くのが又大好きと来ている。思わず吹き出してしまう。これはどうにか一種のセンチメンタリズムと云えたものかも知れない。
 朝鮮の空は世界のどこにもないと云われる程、青くからりと澄んでいる。早くその下を歩きたいと此頃思い出したので、どうにもしようがなくなって来た。こうして私はいつも朝鮮と内地の間を渡鳥のように行ったり来たりすることになろう。何しろ母も年が年なので、あの澄み渡った青空の下、どこか好きな大同江の流れでも見下ろされる丘の上に住みたいものと心では考えている。



底本:「光の中に 金史良作品集」講談社文芸文庫、講談社
   1999(平成11)年4月10日第1刷発行
底本の親本:「金史良全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]」河出書房新社
   1973(昭和48)年4月30日
※初出:「知性」
   1941(昭和16)年5月号
※底本にあった割り注および注は、編者もしくは編集者が付けたものと判断し、削除した。
※本文中
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