。私はぎくりとして、さてはちりぢりになった密航団のかたわれではなかろうかと思った。ところが彼女達が近くやって来た所を見ると、近所の海辺に住んでる移住民の奥さん達のようだった。若い婦達が下駄を手に持って、時々腰を屈《かが》めて沙場の貝殻を拾っている様は美しい。その頃の高校の歌に、
「夕日や燃ゆれ、吉井浜、天の乙女がゆあみする」という句節があった。
 私は滅多《めった》に歌など歌ったことがないが、その時はちょっとそういう文句を思い浮べた。



底本:「光の中に 金史良作品集」講談社文芸文庫、講談社
   1999(平成11)年4月10日第1刷発行
底本の親本:「金史良全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]」河出書房新社
   1973(昭和48)年4月30日
※初出:「文芸首都」
   1940(昭和15)年8月号
※底本にあった割り注および注は、編者もしくは編集者が付けたものと判断し、削除した。
※本文中の「内地」とは、当時日本の統治下にあった朝鮮などの地域との対比の上での日本を指す。
入力:大野晋
校正:大野裕
2001年1月1日公開
2005年12月14日修正
青空文庫作
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