複雑な感情に捉われた。沿岸の住民がとても訓練を得て監視するために、稀の場合でなければ成功しないのである。あっちは命がけの冒険上陸とも云えるが、こちらは又こちらで必死になって上陸させまいと目を光らせている。僅か八つの小学生が学校へ行く途中、密航団を見付けて駐在所に告発したので表彰されたというでかでかした記事も稀ではなかった。それを読んでいると私は、自分までが来れない所へやって来て監視されているような、いやな気持になることがままあった。そのためでもなかろうが、私は九州時代有明海にしても、鹿児島海岸にしても、別府の太平洋にしても随分親しんだものだが、目と鼻の先の玄海灘の海辺には余り遊びに出掛けなかった。
それにしても卒業の年の初秋だったと思う、一度だけ郷里の或る学友と唐津へは行ったことがある。波の静かな夕暮で、海辺には破船だけが一つ二つ汀《みぎわ》に打ち上げられていたが、海の中へ遠く乗り出している松林には潮風がからんで爽やかに揺れていた。その時ふと私達の目には白い着物を着た婦《おんな》達が四五人、遠く砂浜を歩いて来るのが見えた。丁度夕焼頃となり、それが迚《とて》も美しく映えて見えるのだった
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