話をしたいためとかく多少わざとわきへそらしたのである。
 さて、これで人物画といふものが、美術の上で殆ど最も重きをなすものだといふ事を説明したが、その人物画の中、何と云つても婦人は、「美」に歩近《あゆみちか》いだけに、古来、男の画よりも御婦人の画の方がどうしても一般に気受《きうけ》がよろしい。
 よく男性美などと云ふ事を云ふ。しかし、所謂男性美といふものは、どうも少し粗野で簡単で、概念的になりやすい。私は画家として男性美といふ語はあまり好まない。
 男性美といふ考は、婦人美又は曲線美の持つ、「綺麗」とか美くしいとかいふ、美の通俗性に対してその逆を行つたもので、力の美といふ事を、綺麗とか、優美とかいふ事より一層、高踏的なものと考へたものである。
 しかし、「力」の美といふものは必ずしも、綺麗とか優美とかいふ美よりも高踏的なものとは云へない。又綺麗とか優美とかいふ事は必ずしも、通俗な美でもない。力の美にしても又は優美な美くしさにしても、只大切なのはその美の内容である。美はその表はれる形式の性質によつて必ずしも深浅を定められない。美そのものが深ければ、如何なる形式に於て表はれても深いのである
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