と云つてさしつかえない。「形」以上のものと云つたところで、それはやはり形の上に宿つて表現されるのであつて、画家はやはり形を描く事によつてその形以上のものを表現するより外にない、だからつまりすぐれた画家は形以上の形を描く人と云ふ事が出来る。
心を以て心を描くといふ事は、肖像製作又は動物画等「生けるもの」を描く時に一層よく優れて画家の経験するところであるが、即ち眼に見える、対象の形以上の感じ、即ち「精神」を只に手工のみでなく、深い心をその手先にこめて描く事である。
人物又は生きものの眼を描く時この事を知らなくては、それを本当に生かして描く事は出来ない。かく人物画のコツ[#「コツ」に傍点]がその眼にあるといふ事は決して過言ではなく、昔からの名人の逸話や、八方にらみの竜などの云ひつたへが決して只に通俗な御話[#「御話」に傍点]でのみないといふ事が分る。
近来、印象派や或る自然主義以降、この人物画などに、さういふ「心」を描くとか、又は「性格」を表はすとか、「人」としての感じを生かすとかいう事は昔の事であつて、美術は只色を描き形を描けばよろしいといふ考が新しいとされる傾向がある。これ等の人に
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