ったのも、ひっきょうは前回に述べたるごとく、モーリスの論文が世間の注意をひいて以来、種々の調査研究の行なわれた結果、食物の良否が国民の健康に及ぼす影響のきわめて甚大《じんだい》なるものなることが、次第に発見されたためである。この条例は、貧乏な小学児童に公の費用をもって食事を給与するということを各地において実行するがために設けられた法律である。今その規定の詳細に至っては、私はここにこれを説くの必要を認めぬが、ただそのだいたいの精神を伝えることは、この物語を進める上にすこぶる便利だと考える。
 試みにこの法律案が議会に提出された時の議事録を見るに、一九〇六年三月二日下院の議場においてウィルソン氏の試みたる原案賛成演説には、次のごとき一節がある。
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「諸君の中には、今日児童の大多数が食物なしに、または営養不足の状態の下に、通学しつつある事を否認さるるかたはあるまい。今この法律案の目的とするところは、すなわちかかる児童に向かって食事を給与せんとするにある。けだし児童養育の責任を有する者の何人《なんぴと》なるべきかについては、もちろん諸君の中に種々の異説があるであろう。すな
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