ネっているので、たとえば平均体重より五十ポンド以上太っている者などは四十歳より四十四歳の間においてその死亡者数は平均数を超過すること百人につき七十五人の多数に上りつつあるのである。
 これに比ぶれば、やせ過ぎている者のほうがむしろはるかに安全である。試みに次に掲ぐる一表を吟味せよ。こは前と同じ会社が同じ期間に、総人員五十三万百八人について調べた結果で、この方は平均以下の体重を有する者の死亡率を現わすものであるが*、その成績は太り過ぎた者よりもはるかによいのである。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
* Fisher, Ibid., p. 219.
[#ここで字下げ終わり]

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               年齢 二〇―二四 二五―二九 三〇―三四 三五―三九 四〇―四四 四五―四九 五〇―五六 五七―六二
                      %     %     %     %     %     %     %     %
五ないし十ポンド過少┌平均以下の死亡率   ―     一     ―     九    一五     三    一〇     七  
          └平均以上の死亡率   七     ―     四     ―     ―     ―     ―     ―  
十五ないし二十ポンド┌平均以下の死亡率   ―     ―     ―     ―    一三     一     八    一八  
過少        └平均以上の死亡率  一五     八     〇     三     ―     ―     ―     ―  
二十五ないし四十五ポ┌平均以下の死亡率   ―     ―     ―     ―     三    一一     九    一九  
ンド過少      └平均以上の死亡率  三四    一六     八     二     ―     ―     ―     ―  
[#ここで字下げ終わり]

 右の表によりて見れば、最もやせた人すなわち平均より二十五ポンドないし四十五ポンドも体重の少ない者にあっても、三十代を越して四十歳以上になるとすべて平均よりも死亡率が少なくなるのである。
 表を掲げたついでにすぐ引き続いて述べたい事があるが、余白がなくなったから残りは明日に回す。[#地から1字上げ](十二月二十一日)

       十二の六

 だれも長生きがしたいがために、肥ゆれば喜びやすれば悲しむけれども、前回に証明したるごとく、実は太り過ぎているよりもやせている方がはるかに安全なのである。財産もまたかくのごとし。その乏しきこと度に過ぐるはもとより喜ぶべきことにあらざれども、その多きこと度に過ぐるもまたはなはだのろうべきことである。ことに肥えたと言いやせたと言うもからだだけのことならばその差もおおよそ知れたものであるが、貧富の差になると、すでに上編に述べたるごとく、今日は実に驚くべき懸隔を示しておるのであるから、経済学者という医者の目から見ると、貧の極におる人も、富の極におる人も、いずれも瀕死《ひんし》の大病人なのである。たとうれば、今日の貧乏人は骨と皮とになって、血液もほとんどかれ果てたる病人のごときもので、しかもそういう病人の数が非常に多いのである。しかし金持ちはまた太って太ってすわれもせず歩けもせず、顔を見れば肉が持ち上がって目も口もつぶれてしまい、心臓も脂肪のためにおさえられてほとんど鼓動を止めおるがごとき病状にあるものである。貧乏人に比ぶればその数は非常に少ないが、しかしこれもなかなかの重病患者である。
 人は水にかわいても死ぬがおぼれても死ぬものである。しかるに今や天下の人の大多数は水にかわいて死んで行くのに、他方には水におぼれて死ぬ者もある。それゆえ、私はここに回を重ねて富者に向かいしきりにぜいたく廃止論を説く。奢侈《しゃし》の制止、これ世の金持ちが水におぼるるの富豪病より免るる唯一の道なるがためである。
 貧乏人は割合に気楽である。衣食給せざるがためにおのれが身心を害する事あるも、これがためおおぜいの他人に迷惑を及ぼすという事はまれである。しかし金持ちはぜいたくをするがためにただにおのれが身心を害するのみならず、同時に世間多数の人々の生活資料を奪うのであるから、その責任は重大である。自分が水におぼれて死ぬのみではなく、自分が水におぼれて死ぬがために、天下の人を日射病にかからすのであるから、その責任は実に重大である。古人も「飲食は命を持《たも》ちて飢渇を療するの薬なりと思うべし」と言っておられる。ただその薬なきために一命を失うもの多き世に、薬を飲み過ぎて死んでは申し訳なきことである。一夜の宴会に千金を投じ万金を捨つる
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