lえてみるとわかる。けだし新たに徴収さるべき金は、まず第一に、わが国の海岸を何人《なんぴと》にも侵さしめざるようこれを保証することのために費やさるべきものである。それと同時にこれらの金はまた、この国内における不当なる困窮をば、ただに救済するのみならず、さらにこれを予防せんがために徴収さるるものである。思うにわが国を守るがため必要なる用意をば、常に怠りなくしておくということは、無論たいせつなことである。しかしながら、わが国をしていやが上にもよき国にしてすべての人に向かってまたすべての人によって守護するだけの値うちある国たらしむることは、確かに同じように緊要なことである。しかしてこのたびの費用はこれら二つの目的に使うためのもので、ただその事のためにのみこのたびの政府の計画は是認せらるるわけである。」
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長い長い演説がこれでしまいになったかと思うと、彼は一段と声を励まし、――私は今、速記録を見ているので、ここで彼が声を高くしたかどうか実は確かでないけれども、ことばの勢いを見てかりにこう言っておく――さらに続いて言うよう。
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「人あるいは余を非難して、平和の時代にかくのごとき重税を課することを要求した大蔵大臣はかつてその例がないと言う。しかしながら、ミスター・エモット(当時全院委員長の椅子《いす》を占めていた人)、これはこれ一の戦争予算である。貧乏というものに対して許しおくべからざる戦《たたかい》を起こすに必要な資金を調達せんがための予算である。余はわれわれが生きているうちに、わが社会が一大進歩を遂げて貧乏と不幸及び必ずこれに伴うて生ずるところの人間の堕落というものが、かつて森に住んでいた狼《おおかみ》のごとく全くこの国の人民から追い去られてしまうというがごとき、よろこばしき時節を迎うるに至らんことを望みかつ信ぜざらんとするもあたわざる者である。」
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有名なる大演説はこれで終わった。しかし彼ロイド・ジョージの仕事は決してこれで終わったわけではない。
俊傑ロイド・ジョージは恐るべき大英国の敵を国の内外に見たのである。すなわち彼は、英国の海岸を外より脅かさんとせるドイツの恐るべきを知ると同時に、国家の臓腑《ぞうふ》を内より腐蝕《ふしょく》せんとする貧困のさらに恐るべき大敵たることを発見したものである。さ
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