震えながら、手錠をかけ護送車に載りて、小菅に近き荒川を渡りたり。当時の光景今なほ忘れ難し。乃ち一詩を賦して友人堀江君に贈る。詩中奇書といふは、エドガー・スノウの支那に関する新著のことなり。今日もまた当年の如く雨ふれども、さして寒からず。朝、草花を買ひ来りて書斎におく。夕、家人余がために赤飯をたいてくれる
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秋風就縛度荒川 秋風縛に就いて荒川を度りしは、
寒雨蕭々五載前 寒雨蕭々たりし五載の前なり。
如今把得奇書坐 如今奇書を把り得て坐せば、
盡日魂飛萬里天 尽日魂は飛ぶ万里の天。
[#地から1字上げ]十月二十日
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落葉
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われもまた老いにけらしな爛漫と
咲きほこる春の花よりも
今揺落の秋の暮
梢を辞して地にしける
枯葉さま/゛\拾ひ来て
染まれる色を美しと見る
[#地から1字上げ]十一月五日
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落葉
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拾來微細見 拾ひ来りて微細に見れば、
落葉美於花 落葉花よりも美なり。
始識衰殘美 始めて識る衰残の美、
臨風白鬢斜 風に臨んで白鬢斜なり。
[#地から
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