終わり]
ねもごろに掃除を終へて茶をすすり香を聞きをる朝のひととき
初夏の四坪の庭にふりそゝぐ雨をながめて茶をすすりをり[#地から1字上げ]五月十八日
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頃日頻樂郊外漫歩
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信歩遊村野 歩にまかせて村野に遊び、
倦來樹下眠 倦み来りて樹下に眠る。
夢覺無人見 夢さめて人の見るなく、
風清百畝田 風は清し百畝の田。
[#地から1字上げ]六月八日
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夏亦涼
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わがこゝろ足らひてあれば四坪にも足らぬ小庭《さには》の蔭もすずしき[#地から1字上げ]六月二十七日
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三間屋
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余出獄之後、賃得者纔三間之矮屋也、竊審容膝之易安、陶然賦一絶
[#ここで字下げ終わり]
容膝三間屋 膝を容る三間の屋、
曲肱一卷書 肱を曲ぐ一巻の書。
小儒養老處 小儒老を養ふ処、
明月獨侵廬 明月ひとり廬を侵す。
[#地から1字上げ]六月二十九日
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室無長物
[#ここで字下げ終わり]
室無長物出無車 室に長物なく出づるに車なし。
擲盡經世萬卷書 擲ち尽す経世万巻の書。
唯有九天明月度 たゞ九天明月の度るあり、
清光含露入吾廬 清光露を含んで吾が廬に入る。
[#地から1字上げ]七月十一日
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堀江君見贈花十枝、賦此答謝、結句者
當時之實景也
[#ここで字下げ終わり]
對惠施花欲得詩 恵施の花に対し詩を得んと欲し、
未成旬日曠經時 未だ成らず旬日むなしく時を経。
皺白膩紅凋謝後 皺白膩紅凋謝の後、
壺中開蕾一枝梔 壺中蕾を開く一枝の梔。
[#地から1字上げ]七月二十三日
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描竹林孤月之圖、題詩、贈人
[#ここで字下げ終わり]
貧居無所有 貧居有るところなし、
聊贈畫中詩 聊か贈る画中の詩。
竹林孤月度 竹林孤月わたる、
來聽草蟲悲 来り聴け草虫の悲むを。
[#地から1字上げ]八月十日
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寄獄中之義弟 二首
[#ここで字下げ終わり]
一千里外十年囚 一千里外十年の囚、
高樹蝉鳴歳復秋 高樹蝉鳴いて歳また秋なり。
處々江山空有待 処々の江山むなしく待つあり、
斷雲斜月爲君愁 断雲斜月君がために愁ふ。
荒苑蝉鳴又會秋 荒苑蝉鳴いて又秋に会ふ、
老殘孤客倚門愁 老残の孤客門に倚りて愁ふ。
惆悵我歸君未復 惆悵す我帰りしも君未だかへらず、
不知與誰話曾遊 知らず誰と共にか曾遊を話せむ。
[#地から1字上げ]八月二十日及二十四日
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貧居小景 二首
[#ここで字下げ終わり]
月夜よし夜ふけて通る人のあり道踏む音の枕にひゞく
客ありて二階に通り窓近き隣の青葉ほめて帰れり
[#地から1字上げ]八月二十四日
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出獄後一年を経て未だ西下するを得ず
[#ここで字下げ終わり]
はたとせを住みにし京に子等住めりみやこの秋に会ひたきものを[#地から1字上げ]八月二十九日
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偶感
[#ここで字下げ終わり]
弱けれどたゞ幸《さち》ありて大木《たいぼく》の倒るゝ蔭にわれ生き残る
(之はからだのことばかりを言ふに非ず)[#地から1字上げ]十月十六日
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天猶活此翁
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昭和十三年十月二十日、第五十九回の誕辰を迎へて、五年前の今月今日を想ふ。この日、余初めて小菅刑務所に収容さる。当時雨降りて風強く、薄き囚衣を纏ひし余は、寒さに震えながら、手錠をかけ護送車に載りて、小菅に近き荒川を渡りたり。当時の光景今なほ忘れ難し。乃ち一詩を賦して友人堀江君に贈る。詩中奇書といふは、エドガー・スノウの支那に関する新著のことなり。今日もまた当年の如く雨ふれども、さして寒からず。朝、草花を買ひ来りて書斎におく。夕、家人余がために赤飯をたいてくれる
[#ここで字下げ終わり]
秋風就縛度荒川 秋風縛に就いて荒川を度りしは、
寒雨蕭々五載前 寒雨蕭々たりし五載の前なり。
如今把得奇書坐 如今奇書を把り得て坐せば、
盡日魂飛萬里天 尽日魂は飛ぶ万里の天。
[#地から1字上げ]十月二十日
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落葉
[#ここで字下げ終わり]
われもまた老いにけらしな爛漫と
咲きほこる春の花よりも
今揺落の秋の暮
梢を辞して地にしける
枯葉さま/゛\拾ひ来て
染まれる色を美しと見る
[#地から1字上げ]十一月五日
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落葉
[#ここで字下げ終わり]
拾來微細見 拾ひ来りて微細に見れば、
落葉美於花 落葉花よりも美なり。
始識衰殘美 始めて識る衰残の美、
臨風白鬢斜 風に臨んで白鬢斜なり。
[#地から
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