下げ]
出獄後初めて銭湯に浴す、昭和七年夏以来六年目のことなり
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久にわれ浴みずありしと歎きつゝ雪ふるゆふべ銭湯にゆく[#地から1字上げ]二月二日
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われは歌人の歌を好まず
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声あげて歌はむとすれど歌ふべき歌一つなき今の日本
[#地から1字上げ]二月五日
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不賣文
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守節遊方外 節を守りて方外に遊び、
甘貧不賣文 貧に甘んじて文を売らず。
仰天無所愧 天を仰いで愧づる所なく、
白眼對青天[#「天」に「〔ママ〕」の注記] 白眼青雲に対す。
[#地から1字上げ]二月五日
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天荒
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人老潛窮巷 人は老いて窮巷に潜み、
天荒未放紅 天は荒れて未だ紅を放たず。
狗吠門前路 狗は吠ゆ門前の路、
雲低萬里空 雲はたる万里の空。
[#地から1字上げ]三月一日
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女中急に暇を乞うて帰る、すぐに代りがありさうにもなく、貧居聊か不景気なり
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さかな屋は間近にあれど市場まで鰯買ひにゆく今の貧しさ
老妻のたゞ所在なく坐しをるに所在なくまた我も居向ふ
[#地から1字上げ]三月三十一日、四月五日
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わが家の庭は三坪に足らざれど東隣の桜、枝を伸ばして爛漫たる花をつけたり
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生籬の上越す隣の桜花けふをさかりと咲きにけるかな
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堀江君夫妻来訪、庭に咲きたりとてくさ/゛\の水仙を贈らる
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水仙は白きぞよけれ青き葉に映る真白の色のゆかしも
[#地から1字上げ]四月十一日
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送春
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盡日看雲坐 尽日雲を看て坐し、
愁人獨送春 愁人ひとり春を送る。
落花絲雨裡 落花糸雨の裡、
塵外刑餘身 塵外刑余の身。
[#地から1字上げ]五月五日
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明月
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難忘幽圄月 忘れがたし幽圄の月。
今夜月光圓 こよひ月光まどかなり。
歩月人迷野 月に歩して人は野に迷ひ、
照人月度天 人を照らして月天をわたる。
[#地から1字上げ]五月十二日
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初夏雑詠 二首
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