のしゞまには
しば/\かゝる思ひにひたる。
[#地から1字上げ]七月三十一日

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余晩歳得樂閑居、雖身住陋巷、心常
似遊山川、乃賦一絶以敍心境云
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長江隨浪下  長江浪に随うて下る、
無事到心頭  事の心頭に到るなし。
對月披襟臥  月に対し襟を披いて臥せば、
烟波載夢流  烟波夢を載せて流る。
[#地から1字上げ]〔八月二十一日〕

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秋思
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淪落天涯客  淪落天涯の客、
驚秋獨悵然  秋に驚いて独り悵然たり。
可憐強弩末  憐むべし強弩の末、
空學竹林賢  空く竹林の賢を学ぶ。
[#地から1字上げ]九月六日

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寄信州蓼科高原滯在中之原君
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地僻無行客  地僻にして行客なく、
秋闌山徑清  秋闌にして山径清し。
雨餘逢月色  雨余月色に逢はば、
高趣畫難成  高趣画けども成り難からむ。
[#地から1字上げ]十月八日

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時勢の急に押されて悪性の変質者盛んに
輩出す、憤慨の余り窃に一詩を賦す
[#ここで字下げ終わり]
言ふべくんば真実を語るべし、
言ふを得ざれば黙するに如かず。
腹にもなきことを
大声挙げて説教する宗教家たち。
眞理の前に叩頭する代りに、
権力者の脚下に拝跪する学者たち。
身を反動の陣営に置き、
ただ口先だけで、
進歩的に見ゆる意見を
吐き散らしてゐる文筆家たち。
これら滔々たる世間の軽薄児、
時流を趁うて趨ること
譬へば根なき水草の早瀬に浮ぶが如く、
権勢に阿附すること
譬へば蟻の甘きにつくが如し。
たとひ一時の便利身を守るに足るものありとも、
彼等必ずや死後尽く地獄に入りて極刑を受くべし。
言ふべくんば真実を語るべし、
真実の全貌を語るべし、
言ふを得ざれば黙するに如かず。
[#地から1字上げ]十月九日

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芳子洵子をつれ上海に向けて立つ
[#ここで字下げ終わり]
たちてゆく孫に分れて子に分れ跡のさびしさ物をも読まず[#地から1字上げ]十月十日

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「祖父河上才一郎」の稿を了へて
[#ここで字下げ終わり]
こもりゐてうまれぬさきのおほちちの畢生《ひつせい》かけばすがためにみゆ
みもしらぬその畢生をかきをへてこひしくなりぬなきおほちちの
をさなご
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