ら/\してゐる彼には、子供がいら/\してゐる訳が胸に徹《こた》へるやうだつた。あんなにしんねりむつつり[#「しんねりむつつり」に傍点]と首《はじめ》も尻尾もなく、小言を聞かされてはたまるものか、何んだつてもつとはつきり[#「はつきり」に傍点]しないんだ、と思ふと彼の歯は自然《ひとりで》に堅く噛み合つた。彼はさう堅く歯を噛み合はして、瞼《まぶた》を堅く閉ぢて、もう一遍寝入らうと努《つと》めて見た。塊的《かたまり》になつた睡気は然し後頭の隅に引つ込んで、眼の奥が冴《さ》えて痛むだけだつた。
「早く寝ないとマヽちやんは又あなたを穴に入れますからね」
始めは可なり力の籠つた言葉だと思つて聞いてゐると仕舞には平凡な調子になつてしまふ。子供はそんな言葉には頓着する様子もなく、人を焦立《いらだ》たせるやうに出来た泣き声を張り上げて、夜着を踏みにじりながら泣き続けた。彼はとう/\たまらなくなつて出来るだけ声の調子を穏当にした積りで、
「そんなに泣かせないだつて、もう少しやりやうがありさうなものだがな」
と云つた。がそれが可なり自分の耳にもつけ[#「つけ」に傍点]/\と聞こえた。妻は彼の言葉で注意さ
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