した。
 僕は誰《た》れかに身をゆすぶられました。びっくらして眼を開《あ》いたら夢でした。
 雨戸を半分開けかけたおかあさんが、僕のそばに来ていらっしゃいました。
「あなたどうかおしかえ、大変にうなされて……お寝ぼけさんね、もう学校に行く時間が来ますよ」
 と仰有いました。そんなことはどうでもいい。僕はいきなり枕もとを見ました。そうしたら僕はやはり後生《ごしょう》大事に庇《ひさし》のぴかぴか光る二円八十銭の帽子を右手で握っていました。
 僕は随分うれしくなって、それからにこにことおかあさんの顔を見て笑いました。



底本:「一房の葡萄 他四篇」岩波文庫、岩波書店
   1988(昭和63)年12月16日改版第1刷発行
底本の親本:「一房の葡萄」叢文閣
   1922(大正11)年6月
入力:鈴木厚司
校正:石川友子
2000年4月29日公開
2005年11月21日修正
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