働者の労働運動は労働者の手に委《ゆだ》ねて、僕は自分の運動の範囲を中流階級に向け、そこに全力を尽くそうとするだろうというまでだ。そういう覚悟を取ることがかえって経過の純粋性を保ち、事件の推移の自然を助けるだろうと信ずるのだ。かかる態度が直接に万が一にも労働階級のためになることがあるかもしれない。中流階級に訴える僕の仕事が労働階級によって利用される結果になるかもしれない。しかしそれは僕が甫《はじ》めから期待していたものではないので、結果が偶然にそうなったのにすぎないのだ。ある人が部屋の中を照らそうとして電燈を買って来た時、路上の人がそれを奪って往来安全の街燈に用いてさらに便利を得たとしても、電燈を買った人はそれを自分の功績とすることはできない。その「することはできない」という覚悟をもって自分の態度にしたいものだと僕は思うのだ。ここが客観的に物を見る人(片山氏のごときはその一人だと思う)と、前提しておいたように、僕自身の問題として物を見ようとする人との相違である。ここに来ると議論ではない、気持ちだ。兄はこの気持ちを推察してくれることができるとおもう。ここまでいうと「有島氏が階級争闘を是認し
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