あり過ぎる。人間は屡彼れの特権を濫用することによつて、特権のために濫用される。大地に根をおろして、梢を空にもたげるものは栄える。梢に大地をつぎ木して、そこに世界を作らうとするものは危い。而してこの奇怪な軽業が、如何に屡わが芸術家によつて好んで演出されるよ。
科学の冷やかな三十棒は、大地に倚つて立つ木の上にも加へられるだらう。けれども、その木はその三十棒を膏雨として受取ることが出来る。然しながらその三十棒が、梢につぎ木された大地の上にふり降される時、それは天地を暗らくする頽嵐となつて働くのだ。
人はこの頽嵐を必要としないか。
人は、土まみれになつたその梢の洗らひ浄められるのを、首を延べて待ち望んでゐるではないか。
嵐よ、吹きまくれ。
*
科学者への警告。
君は人間の存在理由を無視するところから出発するものだ。その企ては勇ましい。
然しながら君は人間の夢を全くさまし切ることは出来ないだらう。何故ならば、人間の夢をさまし切つた時、そこにはもう人間はゐないから。
*
一つの強い縄となる為めには、少くとも二つの小索の合力が必要だ。
自
前へ
次へ
全11ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング