農民文化といふこと
有島武郎

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 農民文化に就て話せといふことですが、私は文化といふ言葉に就いてさへ、ある疑ひを持つてゐるのでありまして、所謂今日文化と云はれてゐるのは、極く小数の人が享受してゐるに過ぎないのであつて、大多数者には何等及ぼす処の無いものであります。殊に農民文化と云ふに至つては、断然無いと云はなければならぬと思ひます。今日農民のおかれてゐる悲惨な境遇に、どうして文化などを生む余裕があり得ませう。

     ◇

 話は横道へ入るかも知れませぬが、農民に文化が無いと云ふのは、農民に文化を生む力が無いと云ふのとは自づと意味が異りまして、只今日の文化に何等交渉をもたないと云ふまでゝあります。真の文化と云ふものは、人類的なものでなくてはならぬのですが、今日のそれは一部の独占的なものに過ぎないのであります。そこで今日は真の文化と云ふものを大いに普及する必要があるのですが、これまた一朝一夕に容易になし得る事業ではあ
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