こと丈けは云ひ得ると思ひます。
◇
この私有制度を滅すに就ては、漸進的解放と、急進的革命の二つの方法があると思ひますが、漸進的にしろ、急進的にしろ、自由は与へられた処に獲得し得るものではなく、掴得する処に与へられるものであります。恩恵的に与へられる処に自由はなく、自ら掴得する処に真の自由があるのであります。急進主義者にはこれはよく解つてゐるのでありますが、漸進主義者の間にはこれが解らず往々恩情主義だとか、協調主義だとか云つて、無意義な政策に骨を折る人があります。例へ漸進主義的方法を採用するにしても、恩情的に文化を或は自由を与へようとするやうなことなく自由を持たざる人が自己に目醒めて、進んで自由を掴得したいと頭を擡げて来た時に、その気勢を看取して、それに充分の力を添へてやると云ふ方法を採ることが大切であると思ひます。
斯くして私有制度を滅して後、初めて人類的な文化に到達し得るのであつて、農民文化と云ふものもつまり其時に於て始めて建設されるのでありますから、今日農民文化を云々すると云ふことは当を得ざる云分であらうと思ひます。(述)
[#地から1字上げ](『文化生活の基礎』大正十二年六月)
底本:「有島武郎全集第九卷」筑摩書房
1981(昭和56)年4月30日初版発行
2002(平成14)年2月10日初版第3刷発行
初出:「文化生活の基礎 第三卷第六號(六月號)」
1923(大正12)年6月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記を新字、旧仮名にあらためました。
※「やう」と「よう」の混用は、底本のままとしました。
入力:mono
校正:田中敬三
2009年10月20日作成
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