き詰まって思案顔をする瞬間もあった。
「事業の経過はだいたい得心が行きました。そこでと」
父は開墾を委託する時に矢部と取り交わした契約書を、「緊要書類」と朱書きした大きな状袋から取り出して、
「この契約書によると、成墾引継ぎのうえは全地積の三分の一をお礼としてあなたのほうに差し上げることになってるのですが……それがここに認めてある百二十七町四段歩なにがし……これだけの坪敷になるのだが、そのとおりですな」
と粗《あら》い皺《しわ》のできた、短い、しかし形のいい指先で数字を指し示した。
「はいそのとおりで……」
「そうですな。ええ百二十七町四段二|畝歩《せぶ》也《なり》です。ところがこれっぱかりの地面をあなたがこの山の中にお持ちになっていたところで万事に不便でもあろうかと……これは私だけの考えを言ってるんですが……」
「そのとおりでございます。それで私もとうから……」
「とうから……」
「さよう、とうからこの際には土地はいただかないことにして、金でお願いができますれば結構だと存じていたのでございますが……しかし、なに、これとてもいわばわがままでございますから……御都合もございましょうし
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