呑《の》まれて消え失せてしまう。人間の本能的生活の中にも屡※[#二の字点、1−2−22]かかる現象は起らないだろうか。或る人が純粋に本能的の動向によって動く時、誤って本能そのものの歩みよりも更に急ごうとする。そして遂に本能の主潮から逸して、自滅に導く迷路の上を驀地《まっしぐら》に馳《は》せ進む。そして遂に何者でもあらぬべく消え去ってしまう。それは悲壮な自己矛盾である。彼の創造的動向が彼を空《むな》しく自滅せしめる。智的生活の世界からこれを眺《なが》めると、一つの愚かな蹉跌《さてつ》として眼に映ずるかも知れない。たしかに合理的ではない。又かかる現象が智的生活の渦中に発見された場合には道徳的ではない。然しその生活を生活した当体《とうたい》なる一つの個性に取っては、善悪、合理非合理の閑葛藤《かんかっとう》を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《さしはさ》むべき余地はない。かくばかり緊張した生活が、自己満足を以て生活された、それがあるばかりだ。智的生活を基調として生活し、その生活の基準に慣らされた私達は動※[#二の字点、1−2−22]《やや》もするとこの基準
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