とが出来る。
然しかかる生活は私の個性からいうと、個性の中に属させたらいいものかわるいものかが疑われる。何故ならば、私の個性は厳密に現在に執着しようとし、かかる生活は過去の集積が私の個性とは連絡なく私にあって働いているというに過ぎないから。その上かかる生活の内容は甚だ不安定な状態にある。外界の事情が聊《いささ》かでも変れば、もうそこにはこの生活は成り立たない。そして私がこれからいおうとする智的生活の圏内に這入《はい》ってしまう。私は安んじてこの生活に倚《よ》りかかっていることが出来ない。
又本能として自己の表現を欲求する個性は、習性的生活にのみ依頼して生存するに堪《た》えない。単なる過去の繰り返しによって満足していることが出来ない。何故なら、そこには自己がなくしてただ習性があるばかりだから、外界と自己との間には無機的な因縁《いんねん》があるばかりだから。私は石から、せめては草木なり鳥獣になり進んで行きたいと希《ねが》う。この欲求の緊張は私を駆って更に異った生活の相を選ばしめる。
一一
それを名づけて私は智的生活(intellectual life)とする。
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