理想は近々と現在の私に這入《はい》りこんで来て、このままの私の中にそれを実現しようとする。かくて私は現在の中に三つのイズムを統合する。委《くわ》しくいうと、そこにはもう、三つのイズムはなくして私のみがある。こうした個性の状態を私は一番私に親しいものと思わずにいられないのだ。
私の現在はそれがある如くある外はない。それは他の人の眼から見ていかに不完全な、そして汚点だらけのものであろうとも、又私が時間的に一歩その境から踏み出して、過去として反省する時、それがいかに物足らないものであろうとも、現在に生きる私に取っては、その現在の私は、それがあるようにしかあり得ない。善くとも悪くともその外にはあり得ないのだ。私に取っては、私の現在はいつでも最大無限の価値を持っている。私にはそれに代うべき他の何物もない。私の存在の確実な承認は各※[#二の字点、1−2−22]の現在に於てのみ与えられる。
だから私に取っては現在を唯一の宝玉として尊重し、それを最上に生き行く外に残された道はない。私はそこに背水の陣を布《し》いてしまったのだ。
といって、私は如何にして過去の凡てを蔑視《べっし》し、未来の凡てを無
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