のに対して憧憬《どうけい》を繋ぐ。既に現われ出たもの、今現われつつあるものは、凡て醜く歪《ゆが》んでいる。やむ時なき人の欲求を満たし得るものは現われ出ないものの中にのみ潜んでいなければならない。そういう見方によって生きる人はロマンティシストだ。
 更に又或る人は現在に最上の価値をおく。既に現われ終ったものはどれほど優《すぐ》れたものであろうとも、それを現在にも未来にも再現することは出来ない。未来にいかなるよいものが隠されてあろうとも、それは今私達の手の中にはない。現在には過去に在るような美しいものはないかも知れない。又未来に夢見られるような輝かしいものはないかも知れない。然しここには具体的に把持さるべき私達自身の生活がある。全力を尽してそれを活《い》きよう。そういう見方によって生きる人はリアリストだ。
 第一の人は伝説に、第二の人は理想に、第三の人は人間に。
 この私の三つのイズムに対する見方は誤っていないだろうか。若し誤っていないなら、私はリアリストの群れに属する者だといわなければならぬ。何故といえば、私は今私自身の外に依頼すべき何者をも持たないから。そしてこの私なるものは現在にその
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