うちゃく》の間から僅《わず》かばかりなりともお前の誠実を拾い出すだろう。その誠実を取り逃すな。若しそれが純であるならば、誠実は微量であっても事足りる。本当をいうと不純な誠実というものはない。又量定さるべき誠実というものはない。誠実がある。そこには純粋と凡てとがあるのだ。だからお前は誠実を見出《みいだ》したところに勇み立つがいい、恐れることはない。
起て。そこにお前の眼の前には新たな視野が開けるだろう。それをお前は私に代って言い現わすがいい。
お前は私にこの長い言葉を無駄に云わせてはならない。私は暖かい手を拡げて、お前の来るのを待っているぞよ。
私の個性は私にかく告げてしずかに口をつぐんだ。
八
私の個性は少しばかりではあるが、私に誠実を許してくれた。然し誠実とはそんなものでいいのだろうか。私は八方|摸索《もさく》の結果、すがり附くべき一茎の藁《わら》をも見出し得ないで、已《や》むことなく覚束《おぼつか》ない私の個性――それは私自身にすら他の人のそれに比して、少しも優れたところのない――に最後の隠家《かくれが》を求めたに過ぎない。それを誠実といっていいのだろう
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