るに極く幽《かす》かな私の影に過ぎなかった。お前は私を出し抜いて宗教生活に奔《はし》っておきながら、お前の信仰の対象なる神を、私の姿になぞらえて造っていたのだ。そしてお前の生活には本質的に何等の変化も来《きた》さなかった。若し変化があったとしても、それは表面的なことであって、お前以外の力を天啓としてお前が感じたことなどはなかった。お前は強いて頭を働かして神を想像していたに過ぎないのだ。即ちお前の最も表面的な理智と感情との作用で、かすかな私の姿を神にまで捏《こ》ねあげていたのだ。お前にはお前以外の力がお前に加わって、お前がそれを避けるにもかかわらず、その力によって奮い起《た》たなければならなかったような経験は一度もなかったのだ。それだからお前の祈りは、空に向って投げられた石のように、冷たく、力なく、再びお前の上に落ちて来る外はなかったのだ。それらの苦々《にがにが》しい経験に苦しんだにもかかわらず、お前は頑固《がんこ》にもお前自身を欺いて、それを精進と思っていた。そしてお前自身を欺くことによって他人をまで欺いていた。
お前はいつでも心にもない言行に、美しい名を与える詐術を用いていた。然し
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