うに知っているのではないかも知れない。然し私は知っている。この私の所有を他のいかなるものもくらますことは出来ない。又他のいかなる威力も私からそれを奪い取ることは出来ない。これこそは私の存在が所有する唯《ただ》一つの所有だ。
恐るべき永劫《えいごう》が私の周囲にはある。永劫は恐ろしい。或る時には氷のように冷やかな、凝然としてよどみわたった或るものとして私にせまる。又或る時は眼もくらむばかりかがやかしい、瞬間も動揺流転をやめぬ或るものとして私にせまる。私はそのものの隅《すみ》か、中央かに落された点に過ぎない。広さと幅と高さとを点は持たぬと幾何学は私に教える。私は永劫に対して私自身を点に等しいと思う。永劫の前に立つ私は何ものでもないだろう。それでも点が存在する如く私もまた永劫の中に存在する。私は点となって生れ出た。そして瞬《またた》く中《うち》に跡形もなく永劫の中に溶け込んでしまって、私はいなくなるのだ。それも私は知っている。そして私はいなくなるのを恐ろしく思うよりも、点となってここに私が私として生れ出たことを恐ろしく思う。
然し私は生れ出た。私はそれを知る。私自身がこの事実を知る主体で
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