して或る時には、烏《からす》が鵜《う》の真似《まね》をするように、罪人らしく自分の罪を上辷《うわすべ》りに人と神との前に披露《ひろう》もした。私は私らしく神を求めた。どれ程完全な罪人の形に於て私はそれをなしたろう。恐らく私は誰の眼からも立派な罪人のように見えたに違いない。私は断食もした、不眠にも陥った、痩《や》せもした。一人の女の肉をも犯さなかった。或る時は神を見出だし得んためには、自分の生命を好んで断つのを意としなかった。
他人眼《よそめ》から見て相当の精進《しょうじん》と思われるべき私の生活が幾百日か続いた後、私は或る決心を以て神の懐《ふところ》に飛び入ったと実感のように空想した。弱さの醜さよ。私はこの大事を見事に空想的に実行していた。
そして私は完全にせよ、不完全にせよ、甦生《そせい》していたろうか。復活していたろうか。神によって罪の根から切り放された約束を与えられたろうか。
神の懐に飛び入ったと空想した瞬間から、私が格段に瑕瑾《かきん》の少い生活に入ったことはそれは確かだ。私が隣人から模範的の青年として取り扱われたことは、私の誇りとしてではなく、私のみじめな懺悔《ざんげ》
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