っている、それは不可避的に何等かの意味の獲得だ。一度この経験を有《も》ったものは、再び自分の心の働きを利他主義などとは呼ばない筈《はず》だ。他に殉ずる心などとはいわない筈だ。そういうことはあまり勿体《もったい》ないことである。
 愛は自己への獲得である。愛は惜みなく奪うものだ。愛せられるものは奪われてはいるが、不思議なことには何物も奪われてはいない。然し愛するものは必ず奪っている。ダンテが少年の時ビヤトリスを見て、世の常ならぬ愛を経験した。その後彼は長くビヤトリスを見ることがなかった。そしてただ一度あった。それはフロレンスの街上に於てだった。ビヤトリスは一人の女|伴《づ》れと共に紅い花をもっていた。そしてダンテの挨拶《あいさつ》に対してしとやかな会釈を返してくれた。その後ビヤトリスは他に嫁《とつ》いだ。ダンテはその婚姻の席に列《つらな》って激情のあまり卒倒した。ダンテはその時以後彼の心の奥の愛人を見ることがなかった。そしてビヤトリスは凡ての美しいものの運命に似合わしく、若くしてこの世を去った。文献によればビヤトリスは切なるダンテの熱愛に触れることなくして世を終ったらしい。ダンテの愛はビ
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