える。君は久しぶりで近々とその山をながめるともう有頂天になった。そして余の事はきれいに忘れてしまう。
君はただいちずにがむしゃら[#「がむしゃら」に傍点]に本道から道のない積雪の中に足を踏み入れる。行く手に黒ずんで見える楡《にれ》の切り株の所まで腰から下まで雪にまみれてたどり着くと、君はそれに兵隊長靴《へいたいながぐつ》を打ちつけて足の雪を払い落としながらたたずむ。そして目を据《す》えてもう一度雪野の果てにそびえ立つ雷電峠を物珍しくながめて魅入られたように茫然《ぼうぜん》となってしまう。幾度見てもあきる事のない山のたたずまいが、この前見た時と相違のあるはずはないのに、全くちがった表情をもって君の目に映って来る。この前見に来た時は、それは厳冬の一日のことだった。やはりきょうと同じ所に立って、凍える手に鉛筆を運ぶ事もできず、黙ったまま立って見ていたのだったが、その時の山は地面から静々と盛り上がって、雪雲に閉ざされた空を確《し》かとつかんでいるように見えた。その感じは恐ろしく執念深く力強いものだった。君はその前に立って押しひしゃげ[#「ひしゃげ」に傍点]られるような威圧を感じた。きょう見る
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