につづいて小さな調剤所がしつらえてあった。君はそこのガラス窓から中をのぞいて見る。ずらっとならべた薬種びんの下の調剤卓の前に、もたれのない抉《く》り抜《ぬ》きの事務椅子《じむいす》に腰かけて、黒い事務マントを羽織った悒鬱《ゆううつ》そうな小柄な若い男が、一心に小形の書物に読みふけっている。それはKと言って、君が岩内の町に持っているただ一人の心の友だ。君はくすんだガラス板に指先を持って行ってほとほととたたく。Kは機敏に書物から目をあげてこちらを振りかえる。そして驚いたように座を立って来てガラス障子をあける。
 「どこに」
 君は黙ったまま懐中からスケッチ帳を取り出して見せる。そして二人は互いに理解するようにほほえみかわす。
 「君はきょうは出られまい」
 君は東京の遊学時代を記念するために、だいじにとっておいた書生の言葉を使えるのが、この友だちに会う時の一つの楽しみだった。
 「だめだ。このごろは漁夫で岩内の人数が急にふえたせいか忙《せわ》しい。しかし今はまだ寒いだろう。手が自由に動くまい」
 「なに、絵はかけずとも山を見ていればそれでいいだ。久しく出て見ないから」
 「僕は今これを読ん
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