ら吹き起こる‥‥その物すさまじさ。
 君たちの船は悪鬼におい迫られたようにおびえながら、懸命に東北へと舵《かじ》を取る。磁石のような陸地の吸引力からようよう自由になる事のできた船は、また揺れ動く波の山と戦わねばならぬ。
 それでも岩内の港が波の間に隠れたり見えたりし始めると、漁夫たちの力は急に五倍にも十倍にもなった。今までの人数の二倍も乗っているように船は動いた。岸から打ち上げる目標の烽火《のろし》が紫だって暗黒な空の中でぱっ[#「ぱっ」に傍点]とはじけると、※[#「※」は「髟がしら+參」、第4水準2−93−26、62−5]々《さんさん》として火花を散らしながら闇《やみ》の中に消えて行く。それを目がけて漁夫たちは有る限りの艪《ろ》を黙ったままでひた漕《こ》ぎに漕いだ。その不思議な沈黙が、互いに呼びかわす惨《むごた》らしい叫び声よりもかえって力強く人々の胸に響いた。
 船が波の上に乗った時には、波打ちぎわに集まって何か騒ぎ立てている群衆が見やられるまでになった。やがてあらしの間にも大砲のような音が船まで聞こえて来た。と思うと救助縄《きゅうじょなわ》が空をかける蛇《へび》のように曲がりくね
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