れかかる帆柱と、急に命を失ったようにしわになってたたまる帆布と、その陰から、飛び出しそうに目をむいて、大きく口をあけた君の兄上の顔とが映った。
君は咄嗟《とっさ》に身をかわして、頭から打ってかかろうとする帆柱から身をかばった。人々は騒ぎ立って艪《ろ》を構えようとひしめいた。けれども無二無三な船足の動揺には打ち勝てなかった。帆の自由である限りは金輪際《こんりんざい》船を顛覆《てんぷく》させないだけの自信を持った人たちも、帆を奪い取られては途方に暮れないではいられなかった。船足のとまった船ではもう舵《かじ》もきかない。船は波の動揺のまにまに勝手放題に荒れ狂った。
第一の紆濤《うねり》、第二の紆濤、第三の紆濤には天運が船を顛覆からかばってくれた。しかし特別に大きな第四の紆濤を見た時、船中の人々は観念しなければならなかった。
雪のために薄くぼかされたまっ黒な大きな山、その頂からは、火が燃え立つように、ちらりちらり白い波頭《なみがしら》が立っては消え、消えては立ちして、瞬間ごとに高さを増して行った。吹き荒れる風すらがそのためにさえぎりとめられて、船の周囲には気味の悪い静かさが満ち広がった。
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