しい男の子が一人と女の子が二人、少し離れた所で人ごみに揉《も》まれながら、それでも一心にその人たちの様子を見つめていた。三隅さんのお袋とおぬいさんとは、妹を連れてきたおたけさんと一かたまりになって、混雑を避けるように待合室の外壁に身をよせて立っていた。西山さんはその人たちを見向こうともしなかった。ほかの書生さんたちもそういう見送人に対して遠慮するらしい気振《けぶり》も見せようとはしない。
 婆やはもう一度西山さんをつかまえて何かもっと物をいいたいと思って、書生さんたちの後から隙をうかがっているけれども、容易にその機会は来そうもなかった。人の心も察しないで何んという不愛想な人たちだろうと思って腹立たしかった。その時軟かく自分の肩に手を置く人があった。振り向いてみるとおぬいさんだった。娘心はおびただしい群衆のぞよめきに軽く酔ったらしく頬のあたりを赤くしていた。
「あなたそんな所にいるとあぶのうございます。こちらにいらっしゃいな」
 そういっておぬいさんは誘ってくれた。婆やはそれをしお[#「しお」に傍点]に諦《あきら》めて、おぬいさんにやさしくかばわれながら三隅さんのお袋の所にいっしょになっ
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