いのを軽薄というんだ。けれどもだ、俺はとにかく実行はしているぞ。哲学はその後に生れてくるものなんだ」
西山は軽薄という言葉を聞くと癪《しゃく》にさわったが、柿江の長談義を打ち切るつもりで威《おど》かし気味にこういった。
けれども柿江はほとんど泥酔者《でいすいしゃ》のようになってしまっていた。その薄い唇は言葉を巧妙に刻みだす鋭い刃物のように眼まぐるしく動いた。人見はいつの間にかこそこそ[#「こそこそ」に傍点]と二階の自分の部屋に行ってしまった。
そこに園が静かにはいってきた。夜寒で赤らんだ頬を両手で撫でながら、笑みかけようとしたらしかったが、少し殺気だったその場の様子にすぐ気がついたらしく、部屋の隅をぐるっ[#「ぐるっ」に傍点]と廻って窓の方に行って坐った。
柿江はまだ続けていた。西山はもう実際うるさくなった。自分の生活とは何んの関係もない一つの空想的な生活が石ころのようにそこに転がっているように思った。
「寒いか」
戸外の方を頤《あご》でしゃくりながら、柿江には頓着《とんちゃく》なく園に尋ねた。
その拍子に柿江がぷっつりと黙った。憑《つ》いていた狐が落ちでもしたように。そし
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