れを知って他を語るのはさらに名誉なことじゃない。日清戦争以来日本は世界の檜舞台に乗りだした。この機運に際して老人が我々青年を指導することができなければ、青年が老人を指導しなければならない。これでありえねばあれだ。停滞していることは断じてできない。……言葉は俺の方が上手《じょうず》だが、貴様もそんなことを言ったな。けれども貴様、それは漫罵《まんば》だ。貴様はいったい何を提唱した。つまりくだらないから俺はこんな沈滞した小っぽけな田舎にはいないと言うただけじゃないか。なるほど貴様は社会主義労働運動の急を大声疾呼《たいせいしっこ》したさ。けれども、貴様の大声疾呼の後ろはからっぽだったじゃないか。そうだとも。よく聞け。ガンベの眼玉みたいなもんだ。神経の連絡が……大脳と眼球との神経の連絡が(ガンベが『貴様は』といって力自慢の拳を振り上げた。柿江は本当に恐ろしがって招き猫のような恰好をした)乱暴はよせよ。……貴様の議論には、その議論を統一する哲学的背景がまったく欠けてるんだ。軽薄な……」
「何が軽薄だ。軽薄とは貴様のように自分にも訳の判《わか》らない高尚ぶったことをいいながら実行力の伴《ともな》わな
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