カ》風の規模と豊富だった木材とがその長屋を巌丈《がんじょう》な丈け高い南京|下見《したみ》の二階家に仕立てあげた。そしてそれが舶来の白ペンキで塗り上げられた。その後にできた掘立小屋のような柾葦《まさぶ》き家根の上にその建物は高々と聳《そび》えている。
けれども長い時間となげやりな家主の注意とが残りなくそれを蝕《むしば》んだ。ずり落ちた瓦《かわら》は軒に這い下り、そり返った下見板の木目と木節は鮫膚《さめはだ》の皺《しわ》や吹出物の跡のように、油気の抜けきった白ペンキの安白粉《やすおしろい》に汚なくまみれている。けれども夜になると、どんな闇の夜でもその建物は燐《りん》に漬《つ》けてあったようにほの青白く光る。それはまったく風化作用から来たある化学的の現象かもしれない。「白く塗られたる墓」という言葉が聖書にある……あれだ。
深い綿雲に閉ざされた闇の中を、霰《あられ》の群れが途切れては押し寄せ、途切れては押し寄せて、手稲山から白石の方へと秋さびた大原野を駈け通った。小躍《こおど》りするような音を夜更けた札幌の板屋根は反響したが、その音のけたたましさにも似ず、寂寞《せきばく》は深まった。霰《
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