字一句を読みはじめた。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
「皚々《がいがい》たる白雪山川を封じ了んぬ。筆端のおのずから稜峭《りょうしょう》たるまた已《や》むを得《え》ざるなり」
[#ここで字下げ終わり]
とそれは書きだしてあった。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
「昨夜二更一匹の狗子《くし》窓下に来ってしきりに哀啼《あいてい》す。筆硯《ひっけん》の妨げらるるを悪《にく》んで窓を開きみれば、一望月光裡《いちぼうげっこうり》にあり。寒威惨《かんいさん》として揺《ゆる》がず。かの狗子白毛にて黒斑《こくはん》、惶々乎《こうこうこ》とし屋壁に踞跼《きょきょく》し、四肢を側立て、眼を我に挙げ、耳と尾とを動かして訴えてやまず。その哀々《あいあい》の状《じょう》諦観視するに堪えず。彼はたして那辺《なへん》より来れる。思うに村人ことごとく眠り去って、灯影の漏るるところたまたま我が小屋あるのみ。彼行くに所なくして、あえてこの無一物裡に一物を庶幾《しょき》し来れるにあらざらんや。庭辺一片の食なし。かりに彼を屋内に招かば、狂弟の虐殺するところとならんのみ。我れの有するものただ一編の文
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