どぐち》と取られちゃ困りますが、お父さんと私とは古いおなじみだから、けっして仇やおろそかに申すんじゃないんですから、どうか、そこんところをお忘れなく……」
 そしてその人は父と簡単な挨拶を取り交わすと、そこにあった書類をいちいち綿密に鞄の中にしまいこんで座を立った。おせいが父のあとについて送りだそうとすると、浅田は、
「お嬢さん、もうようございます。何、星野さんちょっとお顔を」
 いったので、おせいはわざと遠慮した。二人は部屋の外の階子段の上で、あれこれ十分ほどもほそぼそと話をしていた。なぜともなく五体が震えるのを、寒さのせいかと思って、腰を折って火鉢の上に手をかざした。壁が崩れ落ちたと思うところに、日章旗《にっしょうき》を交叉《こうさ》した間に勘亭流《かんていりゅう》で「祝開店、佐渡屋さん」と書いたびらをつるして隠してあるような六畳の部屋だった。建てつけの悪いガラス窓が風のためにひどい音を立てて、盗風《すきまかぜ》が屋外のように流れこんだ。
 父はやがて小むずかしい顔をして帰ってきた。「寒い家だどうも」とあたりを見まわしているのが、千歳の家を知りぬいているおせいには気恥かしいくらいだ
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