細君が四十だ四十一だなんてことになると、つい浮気になりたがるものですよ。……ねえお父さん、お互にまんざら覚えのないことでもないしさ」
 おせいはこんなことをいわれるのを聞いていると、とてもこの話は承諾はできないと思った。聞いているうちに、その人が憎らしくなって、いっそ帰ってしまおうかと思った。父は袖の下に腕を組んでじっと考えこむようにしていた。おせいは二日前に兄の清逸から届いた手紙のことを心の中で始終繰り返していた。お父さんは家のものに何んにも相談しないが、お前の結婚のことを考えているらしい。昨日も浅田という元|孵化場《ふかじょう》で同僚だった鞘取《さやとり》のような男が札幌から来て、長いこと話していった。お母さんが立ち聴きした様子から考えると、どうもそうらしい。しかもお前を貰いたいというのは札幌の梶という男じゃないかと思う。それならその男は評判な高利貸でしかも妾《めかけ》を幾人も自分の家の中に置いているという男だ。どんなことがあってもいうことを聴いてはいけない。自分のところは極端に貧乏している。しかも自分がいつまでも書生生活をしているばかりで、お前にまで長い間苦労をかける。お前の婚期
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