ない彼の家とは雲泥《うんでい》の相違《そうい》だった。渡瀬はその茶の間にしめやかな落着きを感ずるよりも、ある強い誘惑を感じた。けれども机に向っておぬいさんと対坐すると、どうしてもいつもの彼の調子が出にくかった。道々彼が思いめぐらしてきたような気持は否応なしに押しひしゃがれそうだった。いつ見てもおぬいさんはきちんとしすぎるほどつつましく身だしなみをしていた。そんな気持でしているのではないかもしれないが、そしてそうでない証拠にはすべての挙止《ものごし》がいかにもこだわりのない自然さを持っているのだが、後れ毛一つ下げていないほどそれを清く守っているのを見ると、どこといってつけ入る隙もないように見えた。けれども、それが渡瀬にとってはかえって冒険心をそそる種になった。何、おぬいさんだって女|一疋《いっぴき》にすぎないんだ。びくびくしているがものはない。崩せるだけ崩してみてやれという気がむらむらと起ってきて、彼はいきなり胡坐《あぐら》をかきながら。
「いつものとおり胡坐をかきますよ。敲《たた》き大工の息子ですから、几帳面に長く坐っていると立てなくなりますよ」
 といって思いきり彼らしい調子を上げて
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