が迸《ほとばし》りでるのを感じて、急いで身をひるがえしてもとの座になおった。
渡瀬さんは薪をくべると手をはたき合せながら机の向うに帰った。
「経験のないところに感動するってわけはないでしょう」
この二の句を聞くと、おぬいはあまりに押しつけがましいと思った。噂のとおり少し無遠慮すぎると思った。
「これはただそう思うだけでございますけれども、恋というものは恐ろしい悲しいもののように思います。私にもそんな時が来るとしたら、私は死にはしないかと、今から悲しゅうございます。だもんですから、ああいうお話を読みますと、つい自分のように感じてしまうのでございましょうか」
「あなたは実際、たとえば星野か園かに恋を感じたことはないのかなあ」
おぬいはもうこの上我慢がしていられなかった。母がいてくれさえすればと思った。口惜涙を抑えようとしても抑えることができなかった。そしてハンケチを取りだす暇もないので、両方の中指を眼がしらのところにあてて、俯向《うつむ》いたままじっと涙腺を押えていた。
渡瀬さんはしばらくぼんやりしていたが、きゅうに慌てはじめたようだった。
「悪かったおぬいさん。僕が悪かった。……
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