怯《ひきょう》な態度を思い知った。自分の心の姿を渡瀬さんに見せまいとしていたのが間違いだったと気がついた。そこに気がつくと、きゅうにすがすがしく力を感じた、落着いてふたたび書物に向うことができた。読んでゆく間に、もちろん感情は昂《たか》められたけれども、口を噤むほどのことはなくて、しまいまで読みつづけた。渡瀬さんもそれからはかなり注意しておぬいの訳読を見ていてくれた。
 読み終えるとおぬいは眼に涙をためていた。もうそれを渡瀬さんに隠そうとはしなかった。
「たびたび読みつかえたのをごめんくださいまし。意味が分らなかったのではないんですけれども、あんまり悲しいことが書いてあるものですから、つい黙ってしまいましたの。作り話ではどんな悲しいことが書いてあっても、私そんなに悲しいとは思いませんけれども、こんな本当のお話を読みますと……」
 ハンケチで涙を拭いながら何事も打ち明けてこういった。
「これは本当の話ですか」
 渡瀬さんは恥かしげもなくこう聞き返した。
「星野さんがそういうようにおっしゃってでしたけれども」
「本当であったところが要するに作り話ですよ。文学者なんて奴は、尾鰭《おひれ》をつ
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