い嘔気《はきけ》さえ催すのだった。けれども、それだからといって渡瀬さんを卑《いや》しむ気にはなれなかった。父の時代から一滴の酒も入れない家庭に育ちながら、そして母も自分も禁酒会の会員でありながら、他人の飲酒をいちがいに卑しむ心持は起らなかった。これは自分の心持に忠実な態度だろうかとおぬいはよく考えてみるのだった。禁酒会員である以上は、自分の力の及ぶかぎり飲酒を諫《いさ》めなければならないとも思った。その人が溺《おぼ》れている悪い習慣の結果を考えるなら、不愉快を忍んでも諫《いさ》めだてをするのが当然だった。けれどもおぬいには心持としてそれがどうしてもできなかった。なぜだかおぬい自身には判らないけれどもどうしてもできなかった。自分が卑怯《ひきょう》だからそうなのかと考えてもみたが、あながちそうでもない。面倒だからか。そうでもない。どういう心持なのだろう……おぬいはその解決を求めるように渡瀬さんの方を見た。酒焼けというのだろうか、きめの荒そうな皮膚が紫がかっていて、顔全体にむくみが来て、鋭い光を放ってかがやく眼だけれども、その白眼は見るも痛々しいほど充血していた。……酷《むご》たらしい、どう
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