ら、後れ毛のないようにかき上げた。そして袖口をきちんと揃えて、坐りなおすと、はじめて心が落着くのを感じた。おぬいはしんみりと読本に向いて勉強をしはじめた。
ややしばらくしてから、格子戸が力強く引き開けられた。それは渡瀬さんに違いなかった。おぬいは別に慌てることもなく、すなおな気持で立ち上って迎いに出ようとしたが、部屋の出口の柱に、母とおぬいとの襷がかけてあるのを見ると、派手な色合いの自分の襷を素早くはずして袂の中にしまいこんだ。
「いつものとおり胡坐《あぐら》をかきますよ。敲《たた》き大工の息子ですから、几帳面《きちょうめん》に長く坐っていると立てなくなりますよ」
渡瀬さんはそういって、片眼をかがやかしながら、からからと笑って膝を崩した。からからといっても、渡瀬さんの笑いには声は出なかった。
「茶なんざあ、あとでいいですよ。さあやりましょう」
おぬいは渡瀬さんのいうとおりにして、その人と向合いに坐った。渡瀬さんの気息はいつものように酒くさかった。飲んだばかりの酒の匂いではなく、常習的な酒癖のために、体臭になったかと思われるような匂いだった。おぬいはそのすえたような匂いをかぐと、軽
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